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片方だけの言い分を聞いて判決してはいけない。原告と被告の両方の言い分を聞いて、公平に判定を下さねばならないということ。
「さあ……」
と、素子は考へるかたちをした。しかし、その実、なにも考へてはゐないのである。専務のいかつた肩のへんに冬の蠅が一匹とまつてゐる。それが、肩から襟を伝つて首筋に匐ひあがらうとしてゐる。あツ、いよ/\頸筋だ。専務の頤が無意識にそれを追ふやうにひん曲げられた。
「急に思ひつかんなら、考へといて下さい」
「はあ……いまひよつと考へついたんでございますけれども、あれを会社でお買ひになるとすると、夏中、社員が交代で参れやしませんかしら?」
彼女のこの意見にはなんらの反応をも示さず、専務の高野は、蠅が揉手をしてゐる片頬を急にぴくぴく動かしながら、
「もうよろしい。帰りたまへ」
このことがあつて以来、専務の高野は、彼女がお辞儀をしてもろくに会釈もしないやうになつた。彼女は別に後悔をするでもなく、この情勢はそのうちにきつと変るものと信じてゐた。
田沢社長はなるほど毎週二度きまつて顔を出すけれども、彼女の期待に反して、特別に用事を云ひつけるといふことはなかつた。むろん彼女の存在は忘れてゐない証拠に、辻部長を通じて、「勤まりさうか」と間接に訊ねたさうである。それからかうも云つたさうである――「専務とはちよつと肌合が合ふまいと思ふから、彼女が若しそんなことで腐つてゐるやうだつたら、ちつとも気にすることはないと伝へてくれ」と。 彼女の出かたが
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